言って気をあせった。
六十八
大晦日《おおみそか》が来るまでに、二時になっても三時になっても、皆が疲れた手を休めないような日が、三日も四日も続いた。
夜が更《ふ》けるにつれて、表通りの売出しの楽隊の囃《はや》しが、途絶えてはまた気懈《けだる》そうに聞えて来た。門飾の笹竹《ささだけ》が、がさがさと憊《くたび》れた神経に刺さるような音を立て、風の向《むき》で時々耳に立つ遠くの町の群衆の跫音《あしおと》が、潮《うしお》でも寄せて来るように思い做《な》された。
職人達の口に、嗄《か》れ疲れた話声が途絶えると、寝不足のついて廻っているようなお島の重い頭脳《あたま》が、時々ふらふらして来たりした。がたんと言うアイロンの粗雑《がさつ》な響が、絶えず裁板のうえに落ちた。ミシンがまた歯の浮くような騒々しさで運転しはじめた。
「この人到頭寝てしまったよ」
寒さ凌《しの》ぎに今までちびちび飲んでいた小野田が、いつの間にかそこに体を縮めて、ごろ[#「ごろ」に傍点]寝をしはじめていた。
「今日は幾日《いくか》だと思っているのだい」
「上《かみ》さんは感心に目の堅い方《ほう》ですね」職人がそ
前へ
次へ
全286ページ中174ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング