きつ》けられて行った。
「工場から引っこぬいて、これを自分の手で男にしてみよう」
薄野呂《うすのろ》か何ぞのような眠たげな顔をして、いつ話のはずむと云うこともない小野田と親しくなるにつれて、不思議な意地と愛着《あいじゃく》とがお島に起って来た。
「洋服屋も好い商売だが、やっぱり資本《もと》がなくちゃ駄目だよ。金の寝る商売だからね」小野田はお島に話した。
「資本《もと》があってする商売なら、何だって出来るさ。だけれど、些《ちょっ》とした店で、どのくらいかかるのさ」
「店によりきりさ。表通りへでも出ようと云うには、生《なま》やさしい金じゃとても駄目だね」
六十六
芝の方で、適当な或|小《ちいさ》い家が見つかって、そこで小野田と二人で、お島がこれこそと見込んだ商売に取着きはじめたのは、十二月も余程押迫って来てからであった。
そうなるまでに、お島は幾度|生家《うち》の方へ資金の融通を頼みに行ったか知れなかった。小いところから仕上げて大きくなって行った、大店《おおだな》の成功談などに刺戟《しげき》されると、彼女はどうでも恁《こう》でもそれに取着かなくてはならないように心が焦《
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