吉は植木屋の仕事としては、これと云うこともさせられずに日を送って来たが、始終家にばかり引込んで、母親の傍に率《ひき》つけられていたので、友達というものもなかった。絵の好きであった彼は、十六七の時分には、絵師になろうとの希望を抱《いだ》きはじめたが、それも母親に遮《さえぎ》られて、修業らしい修業もしずにしまった。
寝るにも起きるにも、自分ばかりを凝視《みつ》めて暮しているような、年取った母親の苛辣《からつ》な目が、房吉には段々|厭《いと》わしくなって来た。そして何時の頃からか時々顔を合す機会のあった、おゆうの懐かしい娘姿に心が惹《ひき》つけられた。どんなことがあっても、おゆうちゃんを嫁に貰ってくれなければならない、房吉のそう言った辞《ことば》が、母親の口から大秀やおゆうの耳へも入れられた。
結婚してからも、どうかすると、おゆうから離されて、房吉が気鬱《きぶせ》な母親の側に寝かされたり、おゆうが夜おそくまで、母親の側に坐って、足腰を揉ませられたりした。夜更《よなか》に目敏《めざと》い母親の跫音《あしおと》が、夫婦の寝室《ねま》の外の縁側に聞えたり、夜《よ》の未明《ひきあけ》に板戸を引あ
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