うかすると寧《むし》ろ彼女に適しているようにすら思われた。養蚕の季節などにも彼女は家中《うちじゅう》の誰よりも善く働いてみせた。そうして養父や養母の気に入られるのが、何よりの楽しみであった。界隈の若い者や、傭《やと》い男などから、彼女は時々|揶揄《からか》われたり、猥《みだ》らな真似《まね》をされたりする機会が多かった。お島はそうした男たちと一緒に働いたり、ふざけたりして燥《はしゃ》ぐことが好《すき》であったが、誰もまだ彼女の頬《ほお》や手に触れたという者はなかった。そう云う場合には、お島はいつも荒れ馬のように暴れて、小《こ》ッぴどく男の手顔を引かくか、さもなければ人前でそれを素破《すっぱ》ぬいて辱《はじ》をかかせるかして、自ら悦《よろこ》ばなければ止まなかった。
お島は今でもその頃のことを善く覚えているが、彼女がここへ貰《もら》われてきたのは、七つの年であった。お島は昔気質《むかしかたぎ》の律義《りちぎ》な父親に手をひかれて、或日の晩方、自分に深い憎しみを持っている母親の暴《あら》い怒と惨酷《ざんこく》な折檻《せっかん》から脱《のが》れるために、野原をそっち此方《こっち》彷徨《うろ
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