猫と色の嗜好
石田孫太郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)赤色《せきしょく》を
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)白色|若《も》しくは
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)平太郎[#「平太郎」に傍点]と
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聞く所によれば野蛮人は赤色《せきしょく》を愛すると云うが、我輩《わがはい》文明人にしても尚《なお》野蛮の域に居る所の子供は赤色を好み、段々と大きくなるに従って、色の浅いものを好むようになる、而して純白色のものを以て最も高尚なものとするのは、我輩文明人の常である、左《さ》れば染色上の嗜好より人の文野を別てば、白色|若《も》しくは水色等を愛する者は最も文化したるもので、青色《せいしょく》だの紅色《こうしょく》だの又は紫|抔《など》を愛するものは之に中し、緋《ひ》や赤を好む者は子供か又は劣等なる地位に居るものと言うて良い、扨《さ》て是から猫は如何なる染色を好むかに就て述べるのであるが、矢張《やは》り野蛮人にも及ばぬ猫のことなれば、其《その》好む所の色は燃ゆるが如き赤色であるらしい、併し是れは確乎《かくこ》としたことは言えないが、数回の調査は殆ど一致して居るから、先ず斯様《かよう》に仮定するのである、我輩は平太郎[#「平太郎」に傍点]と彦次郎[#「彦次郎」に傍点]と久子[#「久子」に傍点]の三匹を置いて、赤い紐と、白い紐と、青の紐と此《この》三種の異なりたる紐を出し、少しく引摺って見た、然るに其結果は何れも赤紐に来たのである、更に此通りにして第二回の調査を為したるに、又同じく何れも赤い紐に飛び着いた、第三回の調査にも矢張り赤い紐に飛び着き、如何にも嬉しそうにして居た、今度は我輩の家人をして斯く為すこと三回ならしめたるに、矢張り同じく赤い紐に飛着き、次は青い方に向い、白い方には来なかったと言うて居る、此紐に於ての調査は兎に角猫は赤色を最も好むと言うことを得せしむるのであるが、今度は品を代えて赤と、青と、白とのリボンを首に巻き着けて見た、処《ところ》が何れの猫も赤いリボンの首環を喜ぶものの如く、白いリボンを着けた時よりも、余程嬉しげに飛び廻って居たのである、是も我輩の見る処と家人の見る処と一致した、今度は更に赤と白と青との涎掛《よだれかけ》を作りて、矢張り首に纏いたるに、是れ亦前と同じく赤いの
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