聖書
生田春月
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)書卓《デスク》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)二つ宛|喫《す》う
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#「まやかし」に傍点]
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今日来て見ると、Kさんの書卓《デスク》の上に、ついぞ見なれぬ褐色のきたない三六版ほどの厚い書物《ほん》が載っていた。
「先生、それは何です?」と訊くと、
「まあ見たまえ」と、ワイルドの『デ・プロフンディス』や、Kさんの大好きなスウィンバアンやアーサア・シモンズの詩集の下から引出して、僕の手に渡してくれた。見るといかにも古色蒼然たるものだ。全部厚革で、製本はひどく堅牢だ。革はところどころはげたり、すりむけたりしている。縁も煤けている。何だかこう漁師町の娘でも見るような気がする。意外に軽い。
無雑作に開いて見ると、これは聖書《バイブル》だった。細い字が隙間なしに植えてある。まんざら漁師町に関係のないこともないと思って、
「聖書《バイブル》ですね」とKさんを見ると、Kさんのその貴族的な、いかにも旗本の血統を承けているらしいすっき
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