と申すのでございます。その日朝顔はもう花も咲かなくなったから邪魔だと云うので、宅の老人が無造作に抜き取ってしまいました。翌朝ヘルンが垣根のところに参って見るとないものですから、大層失望して気の毒がりました。『祖母さんよき人です。しかしあの朝顔に気の毒しましたね』と申しました。
 子供が小さい汚れた手で、新しい綺麗なふすまを汚した事があります。その時『私の子供あの綺麗をこわしました、心配』などと云った事もありました。美しい物を破る事を非常に気に致しました。一枚五厘の絵草紙を子供が破りましても、大切にして長く持てば貴い物になると教えました。
 祭礼などの時には、いつももっと寄附をせよと申しました。少し尾籠なお話ですが、松江で借家を致しました時、掃除屋から、その代りに薪(米でなく)を持って来てくれた話を聞いてへルンは大層驚いて『私恥じます、これから一回一円ずつおやりなさい』と申して聞き入れなかった事がございました。

 へルンはよく人を疑えと申しましたが、自分は正直過ぎる程だまされやすい善人でございました。自分でもその事を存じていたものですからそんなに申したのです[#「です」は底本では「てす
前へ 次へ
全64ページ中46ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小泉 節子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング