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食事の前に、ほんの少々ウィスキーを用います。晩年には、体のためにと云うので、葡萄酒を用いていました。こんな時にはウィスキーを、葡萄酒と間違ってトクトクとコップについで呑みかけたり、コーヒーの中に塩を入れかけたり、などするのです。子供達から注意されて『本当です。なんぼパパ馬鹿ですね』など云いながらまた考に入るのです。幾度も『パパさんもう、夢から醒めて下され』などと申します。
食物には好悪はございませんでした。日本食では漬物でも、刺身でも何でも頂きました。お菜から喰べました、最後に御飯を一杯だけ頂きました。洋食ではプラムプディンと大きなビフテキが好きでございました。外には好きなものと云えば先ず煙草でした。
食事の時には色々話を致しました。パパは西洋の新聞などの話を致しますし、私は日本の新聞の話を致します。新聞は永い間『読売』と『朝日』を見てました。小さい『清』が障子からのぞきます。猫が参ります。犬が窓下に参ります。自分の食物をそれぞれに分けてやります。なかなか愉快に喰べました。それが済むといつも皆で唱歌などを歌いました。
よく独りで、何か頻りに喜んだり悲しんだりしていました。喜
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