明治維新時代や源平時代や戰國時代が革命的時代であつた。元祿時代や明治時代が平和時代であつた。而してその都度文學もそれに對應して進化した。源平時代の軍記物には貴族に對する武士階級の革命的思想が現われ、維新前後の志士の言論には行き詰つた封建制度に對する新興階級の革命的思想が現われている。
 明治文學、革命的ブルジョア文學のチャンピオンであつた坪内逍遙の「小説神髓」には文學が勸善懲惡から獨立すべきことが強調してある。この場合勸善懲惡は絶對的意味をもつているものでない。善は封建制度の善であり、惡は封建制度の惡である。そこで封建制度が亡びてしまえばこの種の勸善懲惡はもう意味をなさぬ。「小説神髓」は文學に於ける封建社會の殘滓《ざんし》に死刑の宣告を與え、ブルジョア自由主義をこれに代えたものであつた。

       四

 マルクスは「經濟學批評」の序文で簡潔にこの關係を言い表している。「人類の生活を決定するものは意識ではない、その反對に人類の社會的生活が彼等の意識を決定するのだ」と。彼に從えば人類の意識或は思想、所謂上部構造(文化)が人類の物質生活を決定するのではなくて、人類生活の物質的條件がそ
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