うとする勞資協調人道主義者の心理其儘である。おまけに彼等も亦人類の精神的幸福が資本主義經濟組織と密接不離の關係があるかのように思つているのだ。
三
勞資協調派、無抵抗主義者、人道主義者、等が一刀のもとに退治した唯物史觀の白髮首《しらがくび》とは何であるか? それは古代|希臘《ギリシヤ》にさかえた唯物的形而上學である。ターレスやヘラクライトスの原始的唯物哲學は、その後幾度か時代の衣をつけて各時代に出現した。最近に於ける自然科學の發達はエネルギーの概念を發達せしめ、オストワルドの如きは物質概念を捨ててエネルギー一元論を唱えた。唯物的形而上學が舊衣をすてて十九世紀|乃至《ないし》二十世紀の新衣と着更えたのである。
ところが此等のメタフィジシァンは、宇宙の實體或は本體は何であるか? という問題を解こうとしたのである。而してこれに對しては希臘時代にはプラトーンやアリストテレスが、近世にはカントが、最近には新カント派が既にそれぞれ解決を與えている。今日では哲學は知識の問題に、科學は物理的世界の問題に自己の職能を局限して宇宙の究極的實體というような問題には觸れない。唯物史觀は多
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