て進んだ社会に於ては、最も直接に政治闘争の必要が文学を規定することは、つまり、文学の歴史性、階級性をみとめることにほかならぬ。
しからば、芸術のための芸術といふ言葉は、如何なる意味をももち得ないか。それを考察する前に、芸術のための芸術論を、まるでブルジヨア社会から生れて来る本質的な理論であるかのやうに思ひちがへてゐる人がすくなくないことを私は指摘しなければならぬ。「文芸戦線」のテーゼすらも、そのやうな口吻を洩らしてゐる。だが、かゝる理論は一定の社会条件のもとには常に繰り返される理論であり、その意味に於て、十分存在の理由をもつ説である。それは、政治闘争といふものゝ全面的性質を把握しないで、政治闘争は、議会とか政党とか、社会の一局部に限定された現象であると考へる人々の芸術観を代表する。これ等の人々にとつては芸術文学が、政治闘争にいさゝかでも交渉をもつといふことは理解するのに骨の折れることである。文学は完全に政治の圏外に立ち得ることを彼等は確信してゐる。そしてかゝる人々は、政治的に相闘ふ二つの勢力の中間層に最も多く見出される。今日の社会条件のもとでは小ブルジヨア階級の間にこの理論が最も勢を
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