に傍点]といふ一句にある。「表明し保持する」ことゝ「体系づける」ことゝは明かに別のことである。私によれば、体系づけることは、明かに科学の機能に属するのであつて、決して芸術の機能ではない。私たちには沙翁の戯曲にも、「戦争と平和」にも、レオナルドの絵画にも、体系化された意識を見ることはできない。それ等は明かに、それ/″\の時代、それ/″\の階級のイデオロギイ的内容を表明し保持してはゐるが、決して体系づけてはゐない。体系づけるのは理論の役割であつて芸術の役割ではない。芸術と芸術理論とは全く別のものである。かくて、「文芸戦線」の第二回テーゼは、劈頭の一句より、社会科学と文学とを混淆せしめつゝはじまつてゐると言はねばならぬ。
 一に於けるかやうな認識の混乱は、必然にテーゼの第二項を規定し、その混乱をそのまゝそれに伝へてゐる。即はち、そこでは、「それ故に芸術はこの形式の中に体系づけられた意識を社会に伝播し、社会の成員の意識を組織化する[#「組織化する」に傍点]。」と規定されてゐる。こゝで問題となるのは、無論組織化[#「組織化」に傍点]といふ言葉である。そして、「文芸戦線」の社説が、芸術を意識の体系
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