礎におかれた」と叫んだ。もっと突飛《とっぴ》なのは、或る法律学者が、「人造人間の発明は、従来の法律を根柢から顛覆せしめるだろう」という趣旨を長々と記者に語っていたことである。
学界も俗界も上を下への騒ぎであった。勿論このニュウスは全世界に報道され、各国の学界に異常なショックを与えたことはいうまでもない。
2
「ねえ、先生!」
試験管の掃除をしていた内藤房子は、タオルで濡れた手をふきながら、後ろをふりむいてこう言った。
熱心に化学書をしらべていた村木博士は眼鏡をはずして、それを用いた書物のページの上において、助手の方へむきなおった。
「妾《わたし》、先生の昨日の御演説にはほんとうに吃驚《びっくり》しましたわ。先生があんなに世界的な実験をしておられるなんて、ちっとも知らなかったんですもの。そして妾《わたし》なんか何もお役に立っていないし、又お役にたつこともできないんですもの」
「そうじゃないですよ。あなたがそうして試験管の掃除をしたり、薬瓶を片附けたりしていて下さることが、大変私の実験に役に立っているのです」
「でも何も知らない私を理学者だなんて紹介して下さったとき
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