マルクス主義と文學作品の評價との關係の問題に對して懷疑的態度をとつているのである。ここでも私は一言しておきたい。というのはかような新しい、未解決な問題に對して疑いをもつことは、一般に理論家にとつて已むを得ないことであり、それは惡いことではなくて、却つて望ましいことであり、反對にあまりにはやく不完全なオーソドックスを定立することこそ避くべきことであると私は思うのだ。
 第三に私は前に長々しく述べきたつた政治的價値と藝術的價値との二元論を脱することができない。尤もここでもことわつておかねばならぬことは、「藝術的價値」という言葉であるが、これを私は神祕的な、先驗的なものだとは解してはいない。それは社會的に決定されるものだと信じている。ただマルクス主義イデオロギイや、政治鬪爭と直接の關係をもたぬと信ずるまでである。
 第四に、それにも拘わらず、私は文藝作品を批評するにあたつて、私の解釋するような意味の純然たる政治的評價にのみたよるわけにはゆかない。このことはマルクス主義の一般的理論の眞實性を認めた上でのことである。マルクス主義の眞實性を認めながら、私は非マルクス主義作品のもつ魅力にも打たれる。
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