二人は感慨無量でしばらく無言のまま顔を見合わしていたが、やがて女の方が口をきった。
「わたし、貴方だとばっかり思ったものですから、心配で心配で……」
「僕はまた嘉《よし》ちゃんだとばかり思って心配していたんだ。ほんとに嘉ちゃんじゃなかったのだね?」
 二人は光子の屍体を引きとることを即座に可決し、その足で光子の霊前にそなえるべく花を買いに行ったのであった。



底本:「殺意を運ぶ列車 鉄道ミステリー傑作選」光文社
   1994(平成6)年12月20日初版1刷発行
   1999(平成11)年1月10日7刷発行
初出:「新青年」
   1927(昭和2)年1月号
入力:田中亨吾
校正:土屋隆
2001年12月31日公開
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全38ページ中38ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
平林 初之輔 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング