甲府からうった電報の発信時刻は今朝の四時二十分になっておるでしょう。あんな時刻に甲府の駅から電報をうつなんてそれ以外に説明がつかんじゃありませんか。それから駅でしばらく待っていて、五時二十分発の飯田町|行《ゆき》の汽車であの男は東京へひきかえして来たのです。その汽車がちょうどさっきあの男が乗って帰った汽車なのです。あの汽車は甲府から出る汽車で松本とは連絡しとりませんよ。要するに、こんなことをしてあの男は現場に不在であったことを二重に証明しようとしたのですが、甲府発の四二四号列車に乗ったのは不注意でしたよ。旅行案内を見ればすぐに化《ばけ》の皮があらわれますからね」
「ふむ」と佐々木警部は茫然として言った。
「その証拠には」上野探偵は言葉をつづけた。「あの男は、わざわざ夜中《やちゅう》に電報を打ってまで被害者にむかえに来てくれと言ってよこしておきながら、駅へ着いた時、あたりをふりむきもせず、待合室を探しもしないでまっすぐに俥《くるま》をよんで乗りましたよ。誰も迎えに来ておらぬことをちゃんと知っていたのです。名古屋から打った電報も甲府から打った電報も二通とも貴方がたを瞞着《まんちゃく》するた
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