へ行きましたから、貴方《あなた》の部下の刑事たちに様子を見せにやりました。大成功ですよ。もう三十分のうちに犯人は逮捕されます」
「いや、もう既に逮捕されてしまっているのです、ほら帰って来ました」
一台の自動車が×××署の構内へ徐行してはいって来た。中からは私服刑事が四五人もぞろぞろ出て来た。一番あとから、真蒼な顔をしておりて来たのは大宅三四郎であった。
大宅はすぐに一先ず留置所へ入れられた。「よく逃げようともしないでまごまごしていたね」と佐々木警部は一同を見まわしながら上機嫌で言った。
「ちょうど役所へ出るところだって言ってました」と一人の私服が汗を拭き拭きまるで自分の手柄のように言った。
「れこ[#「れこ」に傍点]に泣かれたのは弱ったなあ」と第二の私服が小指を出しながら、第三の私服に向って内密《ないしょ》で言った。「かわいそうに、ことによるとあの女も一生|後家《ごけ》さんで暮さにゃならんぜ」
「あの男には細君があるのかね?」と二人の会話を耳さとくききつけた上野探偵は、突然第二の私服にたずねた。
「細君かどうかは知りませんが、きれいなのがいました。別れるときに泣いて困りました」
「
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