と批難するものがある。然しながら、ゾラによれば実験小説家は決定論者ではあるが、宿命論者ではない。なる程、実験小説家は自然法則の外へは出ない。自然法則の中にありて現象の生起する条件をさぐる。けれども彼等はそれだけではない。彼等は現象の決定性を変更する。例へば環境に向つてはたらきかけ、この環境をかへることができる。自由と無知とが同義語でないやうに、自然法則を知り、これを認めることは、これに盲従することを意味するものではない。宿命論と決定論とは全く別のものである。
× × × ×
エミイル・ゾラはこゝで主として小説について論じてゐる。彼は文学の他の品種についてどう考へてゐたゞらうか? 彼はこの論文の最後で次のやうに言つてゐる。
[#ここから1字下げ]
『私は実験小説についてしか論じなかつたが、実験的方法は、史学及び批評を征服し、やがて、劇及び詩をさへも征服するであらうとかたく信じてゐる。これは避くべからざる進化である。』
[#ここで字下げ終わり]
さて、私は、ゾラの方法論を詳細に批評するつもりで、この紹介にとりかゝつたのであるが、限られた紙数と時間とのために、批評どころか、彼の説を伝へることすらも、甚だ不十分にしかできなかつた。いづれ機を見て不備な点を補ふと同時に、ゾラの文学論に含まれたる偉大な功績と、それに対する私の批判とを述べて見たいと思つてゐる。
[#地から1字上げ]{大正十五年十月「新潮」}
底本:「平林初之輔文藝評論全集 上巻」文泉堂書店
1975(昭和50)年5月1日発行
※底本に付された「〔 〕」は、「{ }」に置き換えました。
入力:田中亨吾
校正:松永正敏
2004年5月31日作成
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