やうといふのは、其の虫干の意味に過ぎないのさ。解《わか》ツたかね。」と無意味な眼遣《めづかひ》で妻《つま》の顏を見てニヤリとする。
近子は輕くお叩頭《じぎ》をして、「何《ど》うも御親切に有難うございます。」と叮嚀《ていねい》に謂《い》ツたかと思ふと、「ですが、其樣《そん》なにおひやら[#「おひやら」に傍点]ないで下さいまし。幾ら道具でも蟲がありますからね。」
「おい/\、何を其樣《そん》なに膨《ふく》れるんだ。誰もおひやり[#「おひやり」に傍点]はしないよ。」
「だツて貴方《あなた》、此の雨を見掛けて、見透《みえす》くやうなことを有仰《おつしや》るんですもの。ま、然《さ》うでせう、貴方《あなた》と御一緒《ごいつしよ》になツてから、もう三年にもなりますけれども、何時《いつ》の日曜に散歩でも仕《し》て見ないかと有仰《おつしや》ツたことがあツて? 何時《いつ》だツて家《うち》にばかり引込むで他《ひと》を虐《いび》ツてばかりゐらツしやるのぢやありませんか。」
全く然《さ》うでないとも謂《い》はれぬので、俊男《としを》は默ツて、ニヤ/\してゐたが、ふいと、「そりや人には氣紛《きまぐれ》といふもの
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