りや頭が重いからさ。ところへ上手《じやうず》でもないバイヲリンをギコ/\彈《や》られるんだから耐《たま》らんね。」
近子は些《ちよい》と嫌な顏をして、「それでも貴方《あなた》、何《ど》うかすると彈《や》れツて有仰《おつしや》ることがあるぢやありませんか。」
「そりや機嫌の好《よ》い時のことさ。」と輕《かろ》く眞面目《まじめ》にいふ。
「まア。」と近子は呆《あき》れて見せて、「隨分《ずゐぶん》勝手《かつて》なんでございますね。」
「當然《あたりまへ》さ。恐らく近頃の人間で勝手でない者はありやしない。」
「然《さ》うでせうか。」と空恍《そらとぼ》けたやうにいふ。
「然《さ》うさ。お前だツて俺《おれ》の大嫌《だいきらひ》なことを悦《よろこ》んで行《や》ツてゐることがあるぢやないか。現《げん》に俺《おれ》が思索《しさく》に耽《ふけ》ツてゐる時にバイヲリンを彈《ひ》いたりなんかして………」
「それは濟《す》みませんでしたのね。私《わたし》はまた此樣《こん》な天氣で氣が欝々《うつ/\》して爲樣《しやう》が無かツたもんですから、それで。」と何か氣怯《きおそれ》のする躰《てい》で悸々《おど/\》しなが
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