らいふ。
「然《さ》うかね。併《しか》し然う一々天氣にかこつけ[#「かこつけ」に傍点]られちや、天氣も好《い》い面《つら》の皮といふもんさ。」と苦笑《にがわらひ》して、「だが幾ら梅雨《つゆ》だからツて、此《か》う毎日々々降られたんぢや遣切《やりき》れんね。今日は日曜だから、お前と一|緒《しよ》に何處《どこ》へか出掛けやうと思ツてゐたんだが、これぢや仍且《やつぱり》家《うち》で睨合《にらみあひ》をしてゐるしかないな。」
「私と一緒に? ま、巧《うま》いことを有仰《おつしや》るのね。」と眼に嘲《あざ》む色を見せる。
「何故《なぜ》?………俺《おれ》だツて其樣《そん》なに非人情《ひにんじやう》に出來てゐる人間ぢやないぞ。偶時《たま》には妻《さい》の機嫌を取ツて置く必要もある位のことは知ツてゐる。」
「何《ど》うですか。隨分|道具《だうぐ》あつかひされてゐるんですからね。」
「そりや無論《むろん》道具よ。女に道具以上の價値《かち》があツて耐《たま》るものか。だがさ、早い話が、お前は大事な着物を虫干《むしぼし》にして樟腦《しやうなう》まで入れて藏《しま》ツて置くだらう。俺《おれ》がお前を連れて出やうといふのは、其の虫干の意味に過ぎないのさ。解《わか》ツたかね。」と無意味な眼遣《めづかひ》で妻《つま》の顏を見てニヤリとする。
近子は輕くお叩頭《じぎ》をして、「何《ど》うも御親切に有難うございます。」と叮嚀《ていねい》に謂《い》ツたかと思ふと、「ですが、其樣《そん》なにおひやら[#「おひやら」に傍点]ないで下さいまし。幾ら道具でも蟲がありますからね。」
「おい/\、何を其樣《そん》なに膨《ふく》れるんだ。誰もおひやり[#「おひやり」に傍点]はしないよ。」
「だツて貴方《あなた》、此の雨を見掛けて、見透《みえす》くやうなことを有仰《おつしや》るんですもの。ま、然《さ》うでせう、貴方《あなた》と御一緒《ごいつしよ》になツてから、もう三年にもなりますけれども、何時《いつ》の日曜に散歩でも仕《し》て見ないかと有仰《おつしや》ツたことがあツて? 何時《いつ》だツて家《うち》にばかり引込むで他《ひと》を虐《いび》ツてばかりゐらツしやるのぢやありませんか。」
全く然《さ》うでないとも謂《い》はれぬので、俊男《としを》は默ツて、ニヤ/\してゐたが、ふいと、「そりや人には氣紛《きまぐれ》といふもの
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