來たか知らぬが、兎に角もう螢籠《ほたるかご》には、螢が、恰《ちよう》ど寶玉のやうに鮮麗な光を放ツてゐる。體《からだ》も大分疲れて來たから、ふと氣が付《つ》いて其處《そこ》らを見廻すと、夜も大分|更《ふ》けてゐた。村の方を見ても、灯《ともし》の光も見えなければ、仲間の者が螢を呼ぶ聲も聞えない。自分は何時《いつ》か獨《ひとり》になツて了《しま》ツて闇の中に取殘されてゐたのであツた。
「おや、また深入して了ツた。」
と、はツ[#「はツ」に傍点]と思ツて驚いたツて始まらない。また淋しい思をして歸る事かと思ふと、意久地無く、たゞ心細くなツて來る。
「あゝ! 心細い。」
 何方《どつち》を向《む》いたツて、人の影が一つ見えるのではない。何處《どこ》までも眞《ま》ツ暗《くら》で、其の中に其處《そこ》らの流の音が、夜の秘事《ひめごと》を私語《ささや》いてゐるばかり。空は爽《さはやか》に晴渡《はれわた》ツて、星が、何かの眼のやうに、ちろり、ちろり瞬《またたき》をしてをる。もう村の若衆等《わかいしゆたち》が、夜遊《よあそび》の歸途《かへり》の放歌《うた》すら聞《きこ》えない。螢も急に少《すくな》くなツて、
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