ヤ》ツて行ツて進《あ》げる。」
 自分は疲れてはゐるし、第一眠くてならなかツたから、遠慮をしないで、早速老人の肩へ兩手を掛けると、老人はえんやらツと立起ツて、ぽツくりぽツくり歩き出した。自分は體《からだ》を搖られるので、何んとも謂へぬ好い心地になツて、うと/\と眠ツて了《しま》ツた。そして何時の間に家へ歸ツたのか、翌朝眼を覺して見ると、不思議や自分は何時もの室で安《やすらか》に寢てゐた。

     *     *     *     *     *

 これは夢であツたらうか。自分は其後も、幾度か螢谷といふ處へ行ツて見やうと思ツたけれども遂々行かれなかツた。否、行かなかツたのでは無い、行ツても見當らなかツたのだ。抑、彼の老人は何者であツたらう。之れは、永い間自分にも解らなかツた。併し自分がもう大人になツてから、其老人は自分の祖父樣《おぢいさま》であツた事が解《わか》ツた。



底本:「三島霜川選集(上巻)」三島霜川選集刊行会
   1979(昭和54)年4月8日発行
初出:「文庫」
   1906(明治39)年7月15日号
※新字と旧字の混在は、底本通りとしてました。
入力:小林 
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