」に傍点]なもので、敵が直ぐ頭の上に窺ツてゐるとも知らないで、ぴかり、ぴかり、體《からだ》を光らしながら、草の葉裏《はうら》で一生懸命に露を吸《す》ツてゐる。其處《そこ》のところを密《そつ》と赤手《すで》で捕《つかま》へて呉れる…… 暖い手で、握《にぎ》ツて遣《や》ツても、濟《すま》アして掌《てのひら》を這《は》ツてゐる奴《やつ》を螢籠の中へ入れる…… 恰ど獄屋《ひとや》へ抛込《ほうりこ》まれたやうなものだが、些《ちつ》ともそれには頓着しない。相變らずぴかり、ぴかり體《からだ》を光らしてゐる。それからまたふうわ、ふうわ飛んで來るのを眞《ま》ツ暗《くら》な中に待伏《まちぶせ》してゐて笹の葉か何んかで叩き落す。不意打を喰はせて俘《とりこ》にするのだが、後《あと》[#「後」は底本では「彼」]の連中は先へ來てゐる自分の仲間が此樣な災難に逢ツてゐるとは知らない。で、後《あと》から後から飛んで來るのを、片《かた》ツ端《ぱし》から叩落して、螢籠の中へ入れる。此の面白味忘れられぬから、螢狩は自分に取ツて、最も興味ある遊びの一つであツた。
興味があるから、つい家《うち》から遠く離れて、歸途《かへり》には往々《まゝ》とんだ[#「とんだ」に傍点]怖《おそ》ろしい思をする事もある。けれども螢に浮《うか》されて、半分は夢中になツてゐるのだから家の遠くなる事などは氣が付かう筈が無い。恰ど智慧《ちゑ》の足りない將軍が勝に乗じて敵を長追《ながおひ》するようなものでつい深入《ふかいり》する。そして思も掛けぬ酷目《みじめ》な目に逢はされる事もあツた。例《たと》へば夜|更《ふ》けてから澤山の獲物《えもの》を持ツて獨で闇《くら》い路を歸ツて來ると、不意に行方《ゆくて》から、人魂《ひとだま》が長く尾を曳いて飛出したり、または那《あ》のかはうそ[#「かはうそ」に傍点]といふ奴が突然《だしぬけ》恐ろしい水音をさせて川に飛込むだり、又或は何處《どこ》かの家《うち》で鷄《とり》の夜啼《よなき》をするのが淋しく聞えたり、それから又、何者だか解《わか》らないが、見上げるやうな大きな漢子《をとこ》が足音もさせないで、のそり/\闇の中から現《あら》はれて來てかき消すやうに物影に隱れて了ツたり、謂《い》ツて見れば單純な何んでも無いやうな事柄だけれども、子供心には非常に薄氣味《うすぎみ》の惡《わる》い、其の度に、胸がどきりツ
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