《びつくり》して冷汗《ひやあせ》を出しながら、足の續く限り早足に歩《ある》いた。
もし間違ツたら、終夜《よつぴて》歩いてゐる事に覺悟を定《きめ》てゐたが、たゞ定《きめ》て見たゞけの事で、中々心から其樣な勇氣の出やう筈が無い。其の間にだん/\氣が茫乎《ぼんやり》して來て、半分は眠りながらうと[#「うと」に傍点]/\して歩《ある》いてゐた。そして幾箇《いくつ》の橋を渡ツて幾度道を回ツたか知らぬが、ふいに、石か何かに躓《つまづ》いて、よろ/\として、危《あぶな》く轉《ころ》びさうになるのを、辛而《やつと》踏止《ふみとま》ツたが、それですツかり[#「すツかり」に傍点]眼《め》が覺めて了ツた。見ると今までの處とは、處が、がらり[#「がらり」に傍点]變ツてゐた。
「全體、此處《ここ》は何處《どこ》であらう。」
何處《どこ》だか解《わか》らぬが今まで來た覺の無い處といふだけは解ツてゐた。何《ど》うしたのか不思議や、其處《そこ》らが薄月夜の晩のやうに明《あか》るい。今まで眞《ま》ツ暗《くら》であツたのに不思議に明るい。豈夫《まさか》星光《ほしひかり》ではあるまいと思ツて見てゐると、確《たしか》に星光では無い。螢の光だ。
「大變な螢だ。」
と思はず知らず叫んで、びツくり[#「びツくり」に傍点]したといふよりは、呆《あき》れ返《かへ》ツて見てゐると無量幾千萬の螢が、鞠《まり》のやうにかたま[#「かたま」に傍点]ツて飛違ツてゐる。それに此處《ここ》の螢は普通の螢の二倍の大きさがある。それで螢の光で其處《そこ》らが薄月夜のやうに明いのであツた。餘り其處らが明いので、自分は始《はじめ》、夢を見てゐるのでは無いかと思ツた。餘り其處《そこ》らが奇麗なので、自分は始、狐に魅《ばか》されてゐるのでは無いかと思ツたけれども自分は、夢を見てゐるのでも無ければ狐《きつね》に魅《ばか》されてゐるのでも無い。確に正氣で確に眼を覺まして、其の螢を眺めてゐた。餘り美しくて、餘り澤山ゐるので、頓と捕《つかま》へて見やうといふ氣も起らない。自分はうツとり[#「うツとり」に傍点]として、螢に見惚《みと》れてゐると、
「おい、お前さんは、此處《ここ》へ何しに來たのだ。」
と突如《だしぬけ》に後《うしろ》から肩を叩くものがある。びツくり[#「びツくり」に傍点]して振返ると、夜目だから、能《よ》く判《わか》らぬが、脊の高
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