は妙《めう》に濕氣《しつけ》を含《ふく》んで來《き》た。而《そし》て頭《あたま》が重《おも》い。
「厭《いや》な天氣《てんき》だね。」
「こんな日《ひ》は何《ど》うも氣《き》が沈《しづ》んで可《い》けないものだ。」
味《あぢ》も素氣《そつけ》もないことを云《い》ツて、二人は又《また》黙《だま》ツて歩《ほ》を續《つづ》ける。
 道路《どうろ》の左側《さそく》に工場《こうば》が立《た》ツてゐる處《ところ》に來《き》た。二十|間《けん》にも餘《あま》る巨大《きよだい》な建物《たてもの》は、見《み》るから毒々《どく/\》しい栗色《くりいろ》のペンキで塗《ぬ》られ、窓《まど》は岩|疊《たたみ》な鐵格子《てつがうし》、其《それ》でも尚《ま》だ氣《き》が濟《す》まぬと見《み》えて、其《そ》の内側《うちがは》には細《ほそ》い、此《これ》も鐵製《てつせい》の網《あみ》が張詰《はりつ》めてある。何《なに》を製造《せいぞう》するのか、間断《かんだん》なし軋《きし》むでゐる車輪《しやりん》の響《ひびき》は、戸外《こぐわい》に立つ人《ひと》の耳《みみ》を聾《ろう》せんばかりだ。工場《こうば》の天井《てんじよう》
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