の骸《むくろ》や、屋根の上に啼いてゐる鴉《からす》や電信柱に垂下《ぶらさが》ツて猿のやうに仕事をしてゐる人や、其をまたさも感服したやうな顏で見物してゐる猿の子孫に相違が無いと思はれる人や、それから犬の喧嘩や人の諍《いさかひ》。手錠を箝《は》められた囚人や其を護送する劍を光らせる巡査や、または肥馬に跨《またが》ツた聯隊長や、其の馬の尻にくツつい[#「くツつい」に傍点]て行く馬丁や、犬に乘つた猿や、其の犬を追立《おツた》てて行く猿※[#「廻」の正字、第4水準2−12−11、229−上段6]《さるまはし》や、それからまた妄《やたら》と鞭《むち》で痩馬をひツぱた[#「ひツぱた」に傍点]くがたくり[#「がたくり」に傍点]馬車の馭者《ぎよしや》や、ボロ靴で泥を刎上《はねあ》げて行く一隊の兵卒や、其の兵隊を誘致して行くえら[#「えら」に傍点]さうな士官や、犬を嗾《けし》かけながら犬の先になツて走る腕白小僧や、或は行路病者、※[#「廻」の正字、第4水準2−12−11、229−上段11]國巡禮、乞食僧侶、或はまた癩病患者、癲疳持《てんかんもち》、狂人《きちがひ》、鼻ツかけ、眼ツパ、跛《びツこ》、蹇《ゐざり》、または藝者や素敵な美人や家鴨《あひる》……引ツ括《くる》めていふと、其等の種々の人や動物や出來事が、チラリ、ホラリと眼に映ツてそして消えた。
雖然《けれども》其等の物の一つとして、風早學士の心に何んの刺戟も與へなかツた。風に搖れるフラフ、または空を飛ぶ鳥を見るやうな心地《こゝち》で、冷々として看過した。
其の朝も其の通で。
霧は深かツたが、空は晴渡ツて、日光は燦然《さんぜん》として輝き、そして霧と相映じて鮮麗な光彩を放ツてゐた。彼は二三度空を見上げたが、ただ寒さは感じたばかりで、朗な日光にも刻々に變化して行く水蒸氣《ガス》の美觀にも少しも心を動かされなかツた。初冬の雨上りの朝には、屡《よ》く此樣な光景を見るものだと思ツただけである。そして何時か、此の市《まち》の東の方を流れてゐるS……川に架《か》けられた橋の上まで來た。此の橋の近傍は此の市の一方の中心點となツてゐるので、其の雜踏は非常だ。何處からと無く腥《なまぐさ》いやうな溝《どぶ》泥臭《どろくさ》いやうな一種|嫌《いや》な臭が通ツて來て微《かすか》に鼻を撲《う》つ……風早學士は、此の臭を人間の生活が醗酵《はつかう》する惡
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