苦力頭の表情
里村欣三
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)面喰《めんくら》って
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)にこつき[#「にこつき」に傍点]もせずに、
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ふと、目と目がカチ合った。――はッと思う隙もなく、女は白い歯をみせて、にっこり笑った。俺はまったく面喰《めんくら》って臆病に眼を伏せたが、咄嗟《とっさ》に思い返して眼をあけた。すると女は、美しい歯並からころげ落ちる微笑を、白い指さきに軽くうけてさッと俺に投げつけた。指の金が往来を越えて、五月の陽にピカリと躍った。
俺は苦笑して地ベタに視線をさけた。――街路樹の影が、午《ひる》さがりの陽ざしにくろぐろと落ちていた。石ころを二つ三つよごれた靴で蹴とばしているうちにしみじみ、
――いい女だなア――
と、浮気ぽい根性がうず痒《かゆ》く動いて来た。眼をあげると、女はペンキの剥《は》げたドアにもたれて、凝《じ》っと媚を含んだ眼をこちらに向けていた。緑色のリボンで、ちぢれた髪を額から鉢巻のように結んだ、目の大きい、脊のスラリとした頬の紅い女であった。俺が顔をあげたのを知る
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