シベリヤに近く
里村欣三

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)刃疵《きず》の

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   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#疑問符感嘆符、1−8−77]
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        一

「うむ、それから」
 と興に乗じた隊長は斜な陽を、刃疵《きず》のある片頬に浴びながら、あぶみを踏んで一膝のり出した。すると鞍を揉まれたので、勘違いして跳ね出そうとした乗馬に「ど、どとッ、畜生」と、手綱をしめておいて、隊長は含み笑いに淫猥な歯をむいて
「それから」
 と、飽くまで追及して来た。
 軍属の高村は、ひとあし踏み出して乱れた隊長の乗馬に、自分の馬首を追い縋って並べ立てながら
「は」
 と、答えておいて、あ、は、は、は、はッと酒肥りのした太腹を破ってふき出した。
「隊長殿。これ以上には何んとも」
 彼は恐縮したように、まだ笑いやまない腹を苦し気に、片手の手綱をはずして押えた。
「何故じゃ、高村」
「は、そう開き直られますと、猶更もって…………」
 隊長はちょっと不快な顔をし
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