ント派の影響を受けたのは、高等学校の時の読書会でヴィンデルバントを読んだことが素地をなしていたのであろうが、その時代のわが国の哲学の一般的傾向にも関係があったであろう。すでにいったごとく私が大学に入学した大正六年は、西田先生の画期的な書物『自覚における直観と反省』の現われた年であるが、やはりその年に桑木厳翼先生の名著『カントと現代の哲学』が出ている。これはカント哲学への入門書として私の熱心に読んだ本であった。その前年には朝永三十郎先生の名著『近世における「我」の自覚史』が出ている。私は一高にいてこの本を感激をもって読んだのであるが、その立場は新カント派である。そしてやはり大正六年の暮にはリッケルトの弟子であった左右田喜一郎先生の名著『経済哲学の諸問題』が出ている。これも私には忘れられない本である。左右田博士の影響によって、その頃からわが国の若い社会科学者、特に経済学者の間で哲学が流行し、誰もヴィンデルバント、リッケルトの名を口にするようになった。日本における新カント派の全盛時代であった。
私は左右田先生の本を読んで、哲学が広く他の諸科学に交渉をもたねばならぬことを考えるようになった。
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