れてゐます。しかしながら私たちはなほ心理主義やヒストリスムスに陥ることなくして、しかもひとつの新しい発生的方法[#「発生的方法」に傍点]を考へ得ないでせうか。実在を fieri とみる道は論理的方法以外に不可能でせうか。ナトルプの心理学の方法が心理主義でないならば、歴史的社会的世界に成立する事実をそれの歴史的起源に還元することによつて歴史的意識[#「歴史的意識」に傍点]の根源的なる形を構成し、この意識のはたらきを純粋に記述する学問は――若しかかる学問があつたとすれば――あながちヒストリスムスとして排斥すべきでもないでせう。私は言語学者が既にこれに近い方法を、無意識的であるにせよ、不完全であるにせよ、彼等の研究の種々の方面に於いて用ゐてゐることに気附くのです。学問論は学問の歴史の研究を前提とします。この意味で、自然科学の方面ではあの尊敬すべきフランスの学者デュエム、精神科学の方面では私たちに懐しいかのディルタイが、その方法は各々異るにせよ、試みた研究を拡げてくれ、進めてくれる人の出ることは本当に願はしいことです。
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 尊敬してゐる学者の中でも逢つてみたい人と逢つてみたくない人
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