で現わそう。素直とは謙虚なそしてそれゆえに剛健な心の特質である。そして運命の前にどこまでもへりくだって絶対に他を信頼する心、自由の獲得のためにはあくまで戦って大死一番して後甦るの工夫を忘れない剛健な心、それらに対してのみ救済の完成と自由の完成とは存在する。安静と活動との美しい調和は素直な心においてのみ成就する。第三の思想を私は愛[#「愛」に傍点]という言葉で現わそう。愛とは主客の完全な合一である。しかるに私たちが絶対者を抱きまた絶対者が私たちを抱いてそこに深い合一が成立するときに初めて、私たち自身と私たちの生活とは完成に達することができ、私たちの憧れる永遠なる価値も支持者を得ることができるのである。あるいはまた絶対者は私たちと永遠なるものとの愛の媒介者である。かようにして夢と素直と愛とはよき生活が可能なるがために欠くことができない三つのものである。しかし私はもうこれ以上それらの点について語る必要はないと思う。
一〇
よき生活とはいかなるものかという私が提出しておいた第三の問題が非常に複雑であることは、一般に生活というものがいかに複雑であるかを、ちょっとでも反省してみる人
前へ
次へ
全114ページ中82ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三木 清 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング