は私を悩しく醜い活動にまで追いやるとともに、他方では私の純粋な魂がなそうとする活動を妨げようとする。私の太い血管を勢いよく循《めぐ》る血の快さが、私の清く正しき心に気持のよい寝床を与えている。
 私は傲慢な態度をもって他の人々を蔑みつついった、「君たちは虚栄心に支配されている。金銭や名誉が何になるのだ。本当に自分自身に還って生きない生活は虚偽の生活に過ぎない。」なるほど、私のいうことは言葉どおりには正当である。けれども私の言葉にはそれを生かす魂の純粋が欠けていた。「たといわれ諸※[#「※」は「二の字点」、「々」と同じ、面区点番号1−2−22、61−13]の人の言葉および天使の言葉を語るとも、もし愛なくば鳴銅《なるかね》や響く※[#「※」は「金へん+「秡」のつくり」、第3水準1−93−6、61−14]《にょうはち》のごとし」といわれたように、それがいかに正しく、よく、美しき言葉であり忠告であったにしても、もしそれが謙虚な心と愛とから出たのでなかったならば、結局無意味なことであるに相違ない。
 しかしながらさらに悪いことは、そういう私自身がいっそう強く虚栄心に燃えていたことである。他人の眼
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