る思想とは合致するのでなく、かえって背致しているからである。思想そのものの立場からいえば、社会における批判的な階級、すなわち新興階級の有する思想がかえって批判的であり、それ故に一層真理であり、したがって悪しき思想の出現こそまさに歓迎すべきものであり得る。それにもかかわらずこのとき、支配階級が思想の危機を叫ぶことが必要になればなるほど、この階級はますます危機に迫っているのであり、したがって自己をあらゆる手段をもって維持することがいよいよ必要となっているのであるから、この階級を代表する思想もまたそれ故にいよいよ独断的となるのである。
 独断論は最も多くの場合階級的な意味のものである。しかるに独断論は、まさに独断論として、思想的には無力であるほかない。思想の危機に際会しては、独断論は必然的に最も独断的とならざるを得ないから、思想的にはいよいよ無力となり、かくて独断論は思想そのものの立場から他のものへ転化してゆく。最初には、思想に対するに思想をもってすべきであると主張した独断論は、思想の危機が激成し、拡大するに立ち到るや、今は、あらゆる実践的な手段に訴えることとなる。独断論において、理論的なも
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