とを志すといふのが、この上ない義務である。なぜなら現象は結局互に連繋を有し、或は寧ろ互に錯綜し合ふやうに余儀なくされるのであるから。そして研究者の直観にも一種の組織を作り、その内部的な総生命を顕示するのでなくてはならない。」これは、ゲーテの物理的研究に際し彼に迫つて来た確信であつた。然るにこれはまた、ランケの世界史的構想の標語ともなることができたであらう。
 ゲーテの直観は個々のものを個々のものとして捉へるのでなく、特殊のうちに同時に普遍的なものを見た。色彩論への序文の中で彼は書いてゐる。「物を単に一瞥することは我々に役立ち得ない。あらゆる瞥見は観察へ、あらゆる観察は熟思へ、あらゆる熟思は結合へ移り行き、かくて、我々は世界のうちへ注意深く眺め入る凡《すべ》ての場合において既に理論してゐるのである、と云はれ得る。」また彼は他のときに云つた、「あらゆる事実的なものが既に理論であるのを理解することは最高のことであらう。空の青色は我々に色彩学の根本法則を啓示する。ひとは現象の背後に何物をも決して求めてはならぬ、現象自身が理説である。」普遍は特殊のうちにすでに現はれてゐる。ひとはそれを、現象を超
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