るかね?」総監が部屋を出て行《ゆ》くとシモン博士が訊ねた。
「一つございますが」とイワンは灰色の老顔を皺くちゃにしていった。「それがまた重大な事でございますよ。庭にたおれていたこのやくざ野郎のことでございますがな」と彼は黄色い頭をした大きな黒い死体を無遠慮に指さした、「とにかくあの男の身元がわかったのでございます」
「ホウ! 何者だと?」驚いた博士が叫んだ、「彼の名はアーノルド・ベッケルと申しますが、色々の変名を使っておったのです。渡り者の無頼漢で亜米利加《アメリカ》へも渡ったことがあるという事でございます。そんな関係でブレインに殺されたんでしょう。我々にはあまり厄介もかけませんでした。大抵|独逸《ドイツ》で働いておったんですからな。もちろん独逸《ドイツ》の官憲にも照会いたしましたが、奇妙な事には、こやつにはルイ・ベッケルという双生児《ふたご》の兄弟があって、それは我々になかなか深い縁があるのでございますがな、実は、昨日そやつを断頭台にかけたばかりだという事がわかったのでございますよ、皆さん、全く妙な話ですが、私昨日庭でこの死体を見た時に、私はあんな驚いた事はありませんでしたよ。もし私
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