、「たぶん、彼は全財産をあなたの教会へ寄附しようとでも考えていたんでしょう」と叫んだ。
「たぶんそんな事でしたじゃろう。ありそうなこっちゃ」ブラウンは気の無い返事をした。
「そんなならば」とヴァランタンは凄い笑いを浮べて、「あなたは彼についてはよく知っておられるでしょう。あの男の生活もそれからあのあやつの……」
 オブリアン司令官はヴァランタンの腕に手を置いた。「まア総監、そんな口の悪い、つまらん事はおよしなさい。さもないとまた軍刀が飛び出すから」といった。
 しかしヴァランタンは(坊さんの着実そうな、謙譲な凝視にあって)既に我にかえっていた。
「ハハアいかにも。人の私見はきくものだ。皆さんにお約束の通り、今しばらくおとどまりをねがいたいと思います。お互にはげまし合っていただかねばなりません[#「なりません」は底本では「なりまもん」]。委《くわ》しい事はイワンがお話しいたしましょう。私は仕事に取かからなくてはならんし、その筋へ報告を書かなくてはならん。もう黙っているわけには行《ゆ》かんです。でももし何かまた変ったことでもあれば、私は書斎で書いておりますから」
「イワン、何か変った事があ
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