大使もうろうろしながら手伝った。しかし、死体の近くにこまかに刻んだような木の小枝が二三本落ちているのを見つけたばかりで、外には何も見当らなかった。ヴァランタンは小枝をちょっと拾い上げてみたが、直きに放り出してしまった。
「樹の枝と」彼はまじめ気にいった、「樹の枝とどこの者だか解らぬ首無しの男と、それがこの芝生の上にあるすべてのものですな」
そこには身慄いの催されるような沈黙があった、とその時魂の抜けたようになっていたガロエイ大使は鋭く叫び出した。
「誰だ? 塀のそばに立ってるのは誰だ?」
莫迦々々しく頭の大きい小男の姿が、月靄の中に立って、一同の方へフラフラと近づいて来た。最初は化物のように見えたが、よく見ると、一同が客間に置き去りにして来た無邪気な坊さんである事が解った。
「この庭には門がないようだがな」と彼はおだやかに云った。
ヴァランタンの濃い眉毛が意地悪る気に八字の皺をよせた。僧侶の服装を見ると八の字になるのがこの眉毛の癖なのだ。しかし彼は僧侶の適切な観察を否定するほどに不公平な人間ではなかった。「おっしゃる通りです」と彼は云った。「我々はこの被害者がどうして殺されるに至
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