ところに犯罪を探り歩かねばならぬ私が、今それが自分の家の裏口から事件が起ったのですからな。だが場所はどこですか?」
一同は芝生を横ぎった。河から夜霧が淡々《あわあわ》立ち始めていたので歩行はあまり楽ではなかった。けれどもブルブル慄《ふる》えているガロエイ卿の先導で、彼等はやがて草地の中に横たわっている死体を見付け出した。――非常に丈《せい》の高い、肩幅の広い男の死体。彼は俯伏になっているので、大きな双の肩が黒い着物に包まれていることと、褐色の頭髪が、濡れた海草のようにほんの少しくっついている大きな禿頭のあることだけしか解らなかった。紅い血が突伏した顔の下から蛇のように流れていた。
「とにかくこれは吾々の連中ではない」とシモン博士は深い、奇妙な調子でいった。
「検《あらた》めて下ださい、博士」とヴァランタンがやや鋭い声でいった。「まだ息があるかもしれませんからな」
博士は蹲《しゃ》がんだ。「まだいくらか温味《ぬくみ》があります、しかし息はもう絶えているようです。持上げますからちょっと手伝って下さいませんか」
一同は注意深く死体を地上からちょっとばかり起した、それで、生きているか死ん
前へ
次へ
全42ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
直木 三十五 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング