った、一方他の三人は彼等の混乱せる十二時間のこの最後の怪事をただじっと見るばかりであった。
 師父ブラウンの手が下りた時に、彼等は子供のように若々しい真顔になった。彼は大きい溜息をついて、そして云った、「大急ぎでかたをつけるとしましょうかな。そうじゃ、あなたがたに手っ取り早く呑み込ませるには」と彼は博士の方に向った、「シモン博士、あなたはなかなか鋭い頭脳を持っておられますな。わしは今朝あなたがこの事件について五箇条のえらい質問を出されたのを伺いましたわい。それで、もう一度あれをわしに御質問になれば、わしはそれに御答をして見せますがな」
 シモン博士の鼻眼鏡は疑惑と驚嘆のあまり、鼻からおちた、が彼はすぐに[#「すぐに」は底本では「すぐは」]答えていった、
「よろしい、第一の疑問は、人一人ぐらいは刺針ででも殺せるのに、なぜ無格構な軍刀等で殺したのかという事ですな」
「人間は刺針等では首を刎ねる事は出来ません」と坊さんはおだやかに云った、「しかも、この殺人には、首を刎ねるという事が絶対に必要じゃったのです」
「なぜですか?」とオブリアンは興味をもって訊ねた。
「してつぎの疑問は?」とブラウンが訊いた。
「サア、なぜ被害者は悲鳴をあげるとか、何とかしなかったのでしょう? 庭に軍刀なんていう事はたしかに類の無い事です」
「樹の枝をな」と坊さんは気難しげに云った、そして兇行の現場《げんじょう》の見える窓の方に向いた。「誰もあの小枝の光を見られなんだ、がなぜあんな枝が、他の樹からはあんなに遠くはなれている芝生の上等に、落ちておったか? あれは折取ったのではなく、切断されたものです。犯人は、軍刀で空中で枝を切る事が出来るという事を見せて、敵をあやつっておったのですな。でそれから、敵が腰をかがめてその結果を見ようとした所を、不意討ちにスパリ、そして首が落ちたという具合じゃな」
「なるほど」と博士は落着いて、「だが、次の疑問には誰れでも閉口するだろう」
 坊さんはなおも鑑定でもするように窓の外を見やって、博士の言葉を待っていた。
「御存知の通り、この庭は密閉室のように四方が封じられています、いいですか、しかるに、どうしてよその人間が庭に忍び込んだものでしょう?」と博士は云い続けた。
 振向きもせずに、坊さんは答えた、「よその人なんぞは決してはいって来はせんよ」
 ここでちょっと沈黙があ
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