目の当り、奇々怪々な事がありやした」
「又、諸葛孔明が、とんぼ切りの槍を持ってあばれたかの」
「怎生《そもさん》、これを何んぞといえば、呼遠筒と称して、百里の風景を掌にさすことができる、遠眼鏡の短いようなものでの。つまり、毛唐人の眼は夜見える代りに、遠見が利かん。一町先も見えんというので発明したのが、覗眼鏡に、呼遠筒、詳しくは、寄席へ来て、きかっし」
南玉が出て行くと
「八文も払って、誰が、手前の講釈なんぞ聞くか」
富士春の稽古部屋では、時々、小さい女が出入して、蝋燭の心を切った。
「この流行唄は、滅法気に入ったのう。俺の宗旨は、代々山王様宗だが、死んだら一つ、今の合の手で
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お馬は栗毛で
金の鞍
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ってんだ」
富士春が、媚びた眼と、笑いとを向けて
「お静かに」
と、いった。
「東西東西。お静かお静か。それで、その馬へ、綺麗な姐御を乗せての、馬の廻りは、万燈を立てらあ。棺桶の前では、この吉公が、ひょっとこ踊りをしながら、練り歩くんだ。手前の面が、一生に一度、晴れ立つんだ。たのむぜ」
「よし、心得た。友達のよしみに、今殺してやる。手前
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