いて行った。

  泥人形

 常磐津富士春は、常磐津のほか、流行唄も教えていた。
 襖を開けた次の間で、若い衆が、三人、膝を正して
[#ここから3字下げ]
錦の金襴、唐草模様
お馬は栗毛で、金の鞍
さっても、見事な若衆振り
[#ここで字下げ終わり]
「そう――それ、紫手綱で」
 富士春は、少し崩れて、紅いものの見える膝へ三味線を乗せて、合の手になると、称めたり、戯談《じょうだん》をいったりして、調子のいい稽古をしていた。
 表の間の格子のところで、四人の若い衆が、時々富士春を眺めたり、格子の外に立っている人を、すかして見たりしながら、四方山《よもやま》話をしていた。
「その毛唐人がさ、腰をかけるってのは、膝が曲らねえからだよ。膝さえ曲りゃあ、ちゃんと、畳の上へ坐らあね」
 南玉が、表の格子をあけて、提灯の下から
「今晩は――益満さんは?」
「まだ見えていないよ」
「そうかい、もう見えるだろうが、見えたら、これを渡して」
 と、風呂敷包を置いて、出かけようとする後姿へ
「先生、一寸一寸」
「何か用かの」
「毛唐の眼玉の蒼いのは、夜眼が見えるからだって、本当かい?」
「話説《わせつ》す。
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