、栄達を望まんが、そういう輩に十分の器量を見せてやりたい。器量を振ってみたい。それにはいい機《おり》だ。又とない機だ。この調伏――陰謀が、何の程度か判らぬが、小さければ、わしは、わしの手で大きくしてもよいと思うし、真実でなければ、わしが、真実にしてもよいとさえ思うている。小太」
 益満は、小太郎の顔を見た。
「うむ」
「何を考えている」
「わしは――」
 小太郎は、益満の眼を見ながら
「父は、例の気質じゃで、今度の、お守りのことで、母を離別するにきまっている」
「或いは――然らん」
 益満が、うなずいた。
「大分、こみ入ってますな」
 南玉が、後方から、声をかけて
「智慧がお入りなれば、上は天文二十八宿より、下は色事四十八手にいたるまで、いとも、丁寧親切に御指南を――」
「うるさいっ。貴様、先へ行って待っていろ」
 益満が、振返って叱った。
「承知」
 南玉が、手を上げて、小太郎へ挨拶して、足早に、行ってしまった。
「わしに、一策がある。母上が、戻られたなら、知らせてくれ」
「一策とは?」
 益満は、声を低くして、小太郎に、何か囁いた。小太郎は、幾度もうなずいた。
「これが外れても、未
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