ねえ」
 と、叫んだ。
「庄っ、待てっ」
 小藤次が、周章《あわ》てて、庄吉の肩を押えた。
「待て、庄公」
 同じように、職人が、肩をもった。
「手前なんぞの、青っ臭えのに、骨を折られて、このまま引っ込んじゃ、仲間へ面出しができねえや――若旦那、止めちゃあいけねえ。後生だから――」
 庄吉は、乱れた髪、土のついた着物をもがいて、職人の押えている手の中から、小太郎へ飛びかかろうとした。
「無理もない。大工が、手を折られちゃ、俺が舌を抜かれたようなもんだからのう――小旦那、どうして又、手なんぞ、折りなすったのですい」
 南玉が、聞いた。小太郎は、微笑しただけであった。
「放せったら、こいつ」
 と、庄吉が叫んで、一人の職人へ、泣顔になりながら、怒鳴った。
「だって、お前、お役人でも来たら」
「来たっていいよ。放せったら――」
 庄吉は、口惜しさと、小太郎の冷静さに対する怒りから、涙を滲ませるまでに、興奮して来た。二人の職人が、短刀を持っている手を、腕を、押えていた。
「放せっ――放してくれ、後生だっ」
 庄吉は、泣声で叫んだ。
「話は、俺がつける。庄吉」
 小藤次は、こういって、職人に、眼
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