で、それらを知るためには、何うすれば最も便利であるか、と云うのが重要な問題になるが、日本食物史、日本住宅史、日本旅行史等及び幾種かの、日本服装史等の、主として絵巻物に依るのが、当時の風俗を知るのに最も便利な方法であると思う。歴史風俗を検べるに当って、文書に依るよりも絵巻物に依る方が便利であるのは、階級の上下に渡って顕著な特徴がよく現れているからである。
時代の空気を描出する点に於て、この外形的材料が不足していることは、日本に於ける歴史小説の未発達の力強い一因をなしていると云える。例えば、幾つかの支那の古事をさえその小説に描いている、精力的にして好学の作家、馬琴に於てさえ、日本の歴史的風俗に於ては甚だしい知識不足を暴露しているのである。
然しながら、あらゆる努力を経た後に於て、尚不明な点があって、その不明な点が時代を現す上に必要であるとすれば、そんな場合に歴史小説家としての空想は作者の思うままに発揮されていいのである。
私はその内二三の例をメレヂコフスキイの作品の中から取り来って見ようと思う。「神々の死」別名「背教者ジュリアン」は、基督《キリスト》教と希臘思想《ヘレニズム》の闘争時
前へ
次へ
全135ページ中66ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
直木 三十五 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング