ために、屡々《しばしば》、事実が極端に曲げられ、或は誇張されている。且、歴史的事実の研究が、非常に不足していたこと。
 四に、空想的な、想像力がとても貧弱で、お話にならないこと。例えば、稍々《やや》江戸時代の雰囲気の出ていると思われる第十の「戯作」にしても、都会人中の極く狭隘《きょうあい》なサークル内の人達の生活を描いているのに過ぎないのである。
 それ等の欠点のためでもあり、亦、幕末から明治へかけての政変のためでもあるが、江戸時代の民衆の文芸は、幕府の末に到って遂に堕落し、みる影もなくなったのであった。
 では、次に明治時代にはいって、大衆的なる文芸として、先ず最初に何《ど》んなものが現れ出《い》でたであろうか。否、現れざるを得なかったか。
 提督ペルリの来朝、幕府の倒壊。そして明治維新、開港となり甫《はじ》めて日本は数百年の怠惰|安佚《あんいつ》の眠りから覚めた。西洋の文物は続々として輸入され、封建的鎖国の殻を破った我が国は、忽ちにしてその風貌をあらため始めた。即ち遅ればせながら、西洋先進諸国に伍せんとして、日本の資本主義は、遂には不完成に終ったとは云え、隆々たる発展の端緒を開きは
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