さにゃならん。だからわしは行く先々で話の種になるような事を仕出来《しでか》したのじゃ。大したこともせなんだが――壁を汚したり、密柑をひっくりかえしたり、窓をこわしたりしましたじゃ。だが大切な十字架はおかげで無事。もうウェストミンスターに着いた頃だて。わしは君が、馬鹿なことをやめたがいいと思いますぞ」
「え、何だって」フランボーが聞き返した。
「聞えなくて幸いじゃ。馬鹿なことじゃ。どうせ君はホイスラアになるには少しお人好し過ぎるんじゃ。わしは、現物を握っていてさえが、悪心を起しはせんて、わしはしっかりしてるんじゃ」
「一たい何の事を言ってるんだ」
「よろしい。わしは君が『現物』ということを知っているかと思いおった」師父ブラウンは、気持よげに驚いて言った。「おお、貴公はまだそんなに深みにおちてはおらん!」
「一体全体、お前は何んだってそんな色んなことを知ってるんだ?」フランボーは叫んだ。
「たしかに、わしが僧侶だからだ。わしのような人間の本当の罪悪を聞きとることより外に能のないものでも、またそれだけに人間の悪事については全く気づかず居られようはずがないのじゃ。貴公にはそれが気づかれなんだか
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