行するに違いないのだった。とは言え、ヴァランタンにおいても、もちろん、それが確実にわかっている訳ではなし、誰しもフランボーをつきとめることは出来なかったのだ。
この物凄い大賊が、世界中を荒らし廻ることをやめてから、長《なが》の年月《としつき》がたっていた。彼が仕事をやめてからは、ローランが死んだあとで世間で言ったのと同じように、言わばこの地上に大平安《たいへいあん》の時が来たのだった。しかしながら、彼の最もよく(いやもちろん私は最も悪くと言いたいんだが)栄えていた時代には、フランボーは、カイゼルのように巨大な人物として認められたし、またそれほど国際的な人物になり切っていた。ほとんど毎朝の新聞は、彼が驚くべき犯罪から犯罪へといとまなく仕事をやって行《ゆ》きながら、そのたびにうまく遁走していることを報じていた。彼は巨人のような大男で、身をもって放れ業をやることにかけてはガスコン人の魂を持っていた。そして力技《りきぎ》に対する興味が起ろうものなら、予審判事を逆立ちさせて、「こいつの頭をよくしてやるんだ」などと空嘯《そらうそぶ》いたり、両の小脇に警官を抱えて、リヴォリイの大通りを走ったりした
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