感じながら、大作は、馬上に揺られて行った。
「この仁が、大作殿か」
 編笠の侍が人混みの中で、笠を傾けて、じっと、顔を見ていたが
「成る程、何《ど》こか、父に似たところがあるのう」
 と、一人の連れに囁いた。
「何こか、横顔に――」
「引廻しの日に、敵の居所をつきとめたのも、何かの因縁であろう」
 大作の馬は、一行は行きすぎた。人々は、二人の立っているところを、雪崩れ出した。
「行こう」
 二人は、人混みの中を抜けて、急いで歩き出した。

    三十六

 一人が、女狩右源太の家の前に立って
「物|申《も》う」
 といった。右源太は、褒美の金を、女の前へひろげて
「何んしろ、大作って奴は、平の将門《まさかど》みたいに、七人も影武者があって――」
「物申う」
 お歌が
「あい」
 と、返事して
「誰方かがお越しに」
「金は仕舞っておくがいい」
「ええ」
 右源太が、立って行って
「誰方」
 と、聞いた。
「女狩殿、御在宿で御座ろうか、ちと、御意を得たく」
「拙者が、右源太で御座るが」
 入口を入った武士が、右源太を見て
「始めて御意を得申す。拙者は、御代田仁平」
 といって、表へ
「弟
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