それでは――先生、お名前を、相馬大作のお名前を使いますことを許して頂けますか」
「よいとも」
「有難う存じます」
「短銃?」
「買求めます」
「わしのを使うがいい」
「いえ――」
「精巧でないといかん。相馬大作が、武器も選ばず、旧式のを使っていたと噂されては、心外だ。二十間ほどの着弾距離があるが、十間なら、十分に、打抜けよう。江戸へ戻ってから手渡そう」
「万々、仕損じました節は、お名を汚しませぬ。また、首尾よく仕遂げましたなら、天下の白洲《しらす》にて、いささか学びました、大義大道を説くことに致します」
「良輔」
大作は、和やかな眼で、眺めた。
「はい」
「わしは、十七八年、平山先生について学んで、ようよう心らしい心になったが、お身は、三年にしかならぬ。よく、その決心がついたの」
「恐入ります」
「血気だけではできんことだ」
「決して、逸《はや》っているのでは御座りません」
「逸っていてもよい。お身が、相馬大作といっても、大作はわし一人しか無い。逸った大作、逸らぬ大作、何《いず》れにしても、世人に与えるものが同じならよい。先生は、お喜びになるであろう」
鶏が鳴いた。
「夜鳴している
前へ
次へ
全71ページ中29ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
直木 三十五 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング